猛暑の時期に施設へ面会に行くと、「エアコンは効いているようだけれど、これで本当に大丈夫なのだろうか」と気になることがあります。とくに親が自分から「暑い」と言わないタイプだと、判断する材料がなくて不安が残ります。
先に、要点をまとめます。
- 高齢者は暑さを感じにくくなるため、本人の「暑くない」という言葉だけでは判断材料にならない
- 熱中症で救急搬送された人のうち高齢者が57.1%、発生場所は住居が38.1%と最も多い(消防庁・令和7年確定値)
- 面会時は「エアコンが動いているか」ではなく、居室の温湿度をどう測り、誰が確認しているかを聞くと施設の体制が見える
- 「室温28℃」はエアコンの設定温度ではなく室温の目安。ここを取り違えると確認の質が下がる
ただし、面会で気づいたことを施設にどう伝えるかには、家族が陥りがちな一つの落とし穴があります。これは後半で具体的に説明します。
なぜ高齢者は施設の中でも熱中症になる?
体温調節機能と暑さの感覚がともに低下するため、涼しい室内にいるつもりでも体に熱がこもるからです。加齢とともに汗をかく機能が落ち、皮膚で暑さを感じ取る感覚も鈍くなります。その結果、周囲から見て明らかに暑い部屋にいても本人は「そんなに暑くない」と感じ、エアコンをつけない・水分を取らないという行動につながります。
総務省消防庁が公表した「令和7年(5月〜9月)の熱中症による救急搬送状況」(令和7年10月29日)によると、この期間の全国の救急搬送人員は100,510人で、調査を開始した平成20年以降で最多となりました。年齢区分別では高齢者(満65歳以上)が57,433人(57.1%)と過半数を占めています。発生場所別では住居が38,292人(38.1%)で最も多く、道路(19.7%)がこれに続きます。
ここで注目したいのが「住居が最多」という点です。屋外の炎天下ではなく、屋根のある生活空間で起きているケースが一番多い。介護施設の居室もまた生活空間ですから、「建物の中にいるから安全」とは言い切れません。ご家族としては、施設に入っているから熱中症の心配はないと考えるのではなく、「どう管理されているか」に目を向けるのが現実的です。
施設だから安心、とは言い切れないのはなぜ?
個室中心の施設では、居室ごとの温度管理が入居者本人の操作に委ねられている場合があるためです。特別養護老人ホームのユニット型や有料老人ホームの個室では、居室のエアコンを入居者自身、あるいは訪室したスタッフが操作します。共用スペースの空調が効いていても、居室内が同じ環境とは限りません。
だからこそ、面会で共用ラウンジだけを見て「涼しくて安心した」と判断するのは早計です。実際に親が長い時間を過ごすのは居室ですから、確認したいのは居室側の環境です。施設の暮らしぶり全般をどう見るかは施設の雰囲気を見学で確認する方法にも整理していますが、夏場はここに温度環境という軸が一つ加わると考えてください。
「室温28℃」はエアコンを28℃に設定するということ?
いいえ、28℃は室温の目安であって、エアコンの設定温度ではありません。この取り違えは非常に多く、環境省の『熱中症環境保健マニュアル』でも「『室温28℃』は、エアコンの設定温度ではありません」という趣旨のコラムをわざわざ設けて注意を促しています。同マニュアルでは、28℃という数値はあくまで目安であり、必ず28℃でなければいけないという意味ではないとも説明されています。
つまり、設定温度を28℃にしても、部屋の広さ・日当たり・断熱性能・人の出入りによって実際の室温は28℃を上回ることがあります。西日が入る居室と北向きの居室では、同じ設定でも室温はまったく違います。大切なのは設定温度の数字ではなく、実際の室温が何℃になっているかです。
面会時に確認するとしたら、「エアコンは何度に設定していますか」ではなく、「居室の室温は実際に何℃くらいになっていますか」「温湿度計は置いていますか」と聞くほうが、はるかに実態に近い答えが返ってきます。
湿度も見たほうがいい理由
同じ室温でも、湿度が高いと汗が蒸発しにくくなり、体温を下げる働きが弱まるからです。扇風機の風が心地よく感じられるのは、汗の蒸発が促されるからです。逆に湿度が高い部屋では、汗をかいても皮膚に残るだけで体温が下がりません。
環境省・気象庁が運用する「暑さ指数(WBGT)」も、気温だけでなく湿度と輻射熱を組み合わせて算出されています。気温だけを見て判断する仕組みになっていないのは、湿度の影響が大きいからです。居室に温湿度計が置かれていれば、家族が面会したときに自分の目で両方を確認できます。置いていない施設でも、面会のたびに数字を見たい旨を伝えれば、対応してもらえることがあります。
猛暑の日に施設は何を変えている?
暑さ指数(WBGT)に応じて、水分提供の回数や入浴・レクリエーションの時間帯を調整している施設があります。環境省は令和8年度の熱中症特別警戒アラート・熱中症警戒アラートの運用を令和8年4月22日から10月21日まで行うと発表しています。熱中症警戒アラートは日最高暑さ指数(WBGT)が33に達すると予測される場合に、熱中症特別警戒アラートは都道府県内のすべての暑さ指数情報提供地点で翌日の日最高暑さ指数が35以上になると予測される場合に発表されます。
これらのアラートが出た日に、施設側の運営が何か変わるのかどうかは、施設によって差があります。あらかじめ対応の手順を決めている施設もあれば、現場の判断に任せている施設もあります。どちらが良い悪いという話ではありませんが、「決めているかどうか」を聞くと、その施設が夏場のリスクをどれくらい意識しているかが見えてきます。
聞き方としては、次のような形が答えやすいようです。
| 聞きたいこと | 具体的な聞き方の例 |
|---|---|
| 温度の把握方法 | 「居室の室温は、どなたがいつ確認されていますか」 |
| 温湿度計の有無 | 「居室に温湿度計はありますか。湿度も見ていらっしゃいますか」 |
| 水分補給の記録 | 「日中の水分をどのくらい飲めているか、記録として残っていますか」 |
| 暑い日の運用変更 | 「暑さ指数が高い日は、入浴やレクの時間を変えることはありますか」 |
| 体調変化の連絡 | 「夏場に体調の変化があったとき、家族にはどのタイミングで連絡が入りますか」 |
この5つは、どれも施設を責める質問ではありません。「気にしている家族がいる」と伝わること自体が、日々のケアの中で親のことを意識してもらうきっかけになります。ご家族が遠方で頻繁に通えない場合は、遠方の親の老人ホームを探す方法で触れている電話・書面での確認手段と組み合わせると、夏場も状況をつかみやすくなります。
職員の熱中症対策と入居者の対策は別物
ここは混同されやすいので整理しておきます。2025年6月1日に施行された改正労働安全衛生規則により、事業者には職場での熱中症対策(報告体制の整備、悪化防止措置の策定と周知など)が義務づけられました。これは介護施設の厨房・浴室・送迎といった業務も対象になり得ます。
ただし、この規則が守っているのは働く人(職員)です。入居者の熱中症予防そのものを直接義務づけた規定ではありません。「法律で義務化されたから入居者も守られる」と考えるのは、少し飛躍があります。入居者側の対策は、あくまで各施設のケアの方針・運営基準の中で行われるものだと理解しておくと、確認すべきポイントを見誤らずに済みます。
面会中に見ておきたいのはどこ?
居室に入れる場合は、まず「窓辺の温度」と「本人の様子」の2点を見てください。エアコンの吹き出し口の近くは涼しくても、窓際やベッドの位置によっては体感がまったく違います。西日が差し込む時間帯に居室が何℃になるかは、その時間に面会してみないと分かりません。可能であれば、いつもと違う時間帯に一度訪ねてみると、気づくことがあります。
本人の様子については、次のようなサインが手がかりになります。
- 唇や口の中が乾いている
- 皮膚に張りがなく、手の甲をつまむと戻りが遅い
- 尿の色が濃い、量が少ないという話を聞く
- 会話の反応がいつもより鈍い、ぼんやりしている
- 頭痛やだるさを訴える
これらは熱中症だけが原因とは限らず、脱水や他の体調変化でも起こります。したがって「これが出ていたら熱中症だ」と家族が判断するのではなく、気づいたことを言葉にしてスタッフに伝えるのが正しい使い方です。判断は施設の看護職員や協力医療機関に委ねてください。医療面の体制がどうなっているかは協力医療機関を見るときのポイントにもまとめています。
差し入れをするときに気をつけたいこと
夏場の面会では、飲み物やゼリー、果物などを持参したくなります。ただし、嚥下の状態や持病によっては、家族の判断で口にしてもらうのが適さない場合があります。糖分やカリウムの制限がある方、とろみが必要な方は特に注意が必要です。
差し入れをするときは、事前にスタッフに一声かけて確認するのが安全です。「これを持ってきたのですが、召し上がっていただいて大丈夫でしょうか」と聞けば、その場で判断してもらえます。食事の制限がある方の施設選びについては食事制限に対応できる老人ホームの探し方も参考になります。
気づいたことを施設にどう伝えればいい?
冒頭で触れた「家族が陥りがちな落とし穴」について、ここで説明します。それは、気づいた不安を面会のその場でスタッフに強く言い切ってしまい、事実の共有ではなく苦情の形になってしまうことです。
「この部屋、暑すぎませんか」と切り出すと、受け取る側は指摘・クレームとして身構えます。すると話は「暑くないはずです」「規定どおり管理しています」という説明の応酬になり、肝心の「実際に今この居室が何℃なのか」という事実確認にたどり着きません。
有効なのは、観察した事実だけを、判断を交えずに伝えるやり方です。
- ✗「暑すぎます。エアコンをちゃんとつけてください」
- ✓「今日14時頃に伺ったとき、窓際にいた母の額に汗がにじんでいました。この時間帯の室温はどれくらいになりますか」
後者は、施設を責めていません。「事実」と「質問」だけで構成されているので、スタッフも防御的にならずに調べて答えられます。そして記録に残りやすい形でもあります。伝えた内容が記録に残れば、次回以降の面会でも継続して確認できます。
もし複数回伝えても状況が変わらない場合は、担当のケアマネジャーや施設の生活相談員に相談する段階に進みます。それでも改善が見られないときは、市区町村の介護保険担当窓口や地域包括支援センターに相談するという道もあります。ただし、いきなりそこへ行くよりも、まずは現場との事実共有を丁寧に積み上げるほうが、結果的に親の暮らしは良くなりやすいものです。
入居前の見学が夏なら、確認できることが増える
これから施設を探す方にとっては、夏の見学はむしろチャンスです。真夏の日中に見学できれば、「その施設が暑い日にどう運営されているか」を実際の環境で見られます。パンフレットの写真では分からない、その時間帯の共用スペースの空気感、職員の動き、入居者の様子が確認できます。
見学時の確認項目全般は老人ホーム見学で確認することに整理していますが、夏に見学するなら、そこに「居室の室温・湿度」「水分提供の頻度」「暑い日の運用変更の有無」を足してみてください。同じ質問を複数の施設にぶつけると、答え方の違いから施設ごとの姿勢が見えてきます。
この記事で持ち帰れること
- 高齢者は暑さを感じにくいため、本人の「暑くない」を根拠にしないという判断の前提が持てる
- 面会で聞くべきは設定温度ではなく、実際の室温・湿度を誰がいつ測っているかだと分かる
- 気づいたことを事実と質問の形で伝えることで、苦情にせずに施設と情報を共有できる
次の面会のとき、居室に温湿度計があるかどうかだけ、目で確かめてみてください。あるなら数字を一度メモしておくと、次に訪ねたときの比較材料になります。それだけでも、翌年の夏に向けた記録が一つ積み上がります。
これから施設を探す方は、介護しせつさーちの検索から都道府県・施設種別・費用レンジで候補を絞り込み、気になった施設に夏の見学を申し込んでみるところから始められます。親の様子の変化が気になり始めた段階の方は、お盆に帰省して気づく親の変化|『そろそろかも』と思ったら最初にすることもあわせてご覧ください。
参考にした一次情報
- 総務省消防庁「令和7年(5月〜9月)の熱中症による救急搬送状況」(令和7年10月29日公表)
- 環境省『熱中症環境保健マニュアル』「Ⅲ 熱中症を防ぐためには」
- 環境省「令和8年度熱中症特別警戒アラート及び熱中症警戒アラートの運用を開始します」(報道発表)
- 厚生労働省「改正労働安全衛生規則」(2025年6月1日施行)
