介護医療院・老健・特養の違いは、施設の役割にあります。特養は長く暮らす生活の場、老健は在宅復帰を目指す中間施設、介護医療院は医療と介護の両方が長く必要な人の療養の場です。どれが合うかは、要介護度よりも「日常的にどの程度の医学的管理が必要か」で分かれます。

「病院からそろそろ退院してほしいと言われたけれど、自宅で医療的なケアを続けるのは不安」「特養に申し込んだけれど、順番が回ってくるまでどこで過ごせばいいのか」。こうした場面で、特養・老健と並んで名前が挙がるのが介護医療院です。3つとも介護保険施設ですが、制度上の目的が違うため、同じ要介護度でも向いている施設は変わります。

この記事の答えを先にまとめると、次のとおりです。

  • 3施設の役割は、特養=生活の場、老健=在宅復帰を目指す中間施設、介護医療院=医療も必要な長期療養の場
  • 選ぶときの軸は、要介護度ではなく「本人にどの程度の医学的管理が日常的に必要か」「在宅復帰を目指す段階か、長期療養の段階か」
  • 医師の配置基準は、老健が入所者100人に1人、介護医療院がI型の入所者48人に1人・II型の入所者100人に1人(いずれも常勤換算)。受け入れられる医療的ケアの範囲は施設ごとに確認する
  • 費用の構造(介護費の自己負担+居住費・食費)は共通だが、医療費控除の対象範囲は特養が自己負担の2分の1、老健・介護医療院は全額と違いがある

特養・老健・介護医療院はそもそも何が違う?

特養は「長く暮らす生活の場」、老健は「在宅復帰を目指す中間施設」、介護医療院は「医療と介護を兼ね備えた長期療養の場」という役割分担です。同じ介護保険施設という枠組みに入っていても、制度上の目的が異なります。

施設主な役割医師の配置基準想定される滞在期間
特別養護老人ホーム(特養)生活の場(終のすみか)健康管理と療養上の指導に必要な数(非常勤も可)長期(終身利用を想定)
介護老人保健施設(老健)在宅復帰を目指す中間施設常勤換算で入所者100人に1人以上在宅復帰までの一時的な滞在
介護医療院医療と介護を兼ね備えた長期療養の場常勤換算でI型の入所者48人に1人、II型の入所者100人に1人を合計した数以上長期(看取りまで想定されることもある)

この違いは、それぞれの施設ができた経緯から来ています。特養は老人福祉法に基づく生活施設として、老健は病院と自宅の「中間施設」として、介護医療院はかつての介護療養型医療施設(2024年3月末で廃止)の転換先として、医療の必要な高齢者の長期療養を支える目的で2018年に創設されました。

特養がどんな施設かは特別養護老人ホーム(特養)とは、老健については介護老人保健施設(老健)とは、介護医療院そのものの制度的な位置づけは介護医療院とはでそれぞれ解説しています。この記事では、3つを並べたときにどう選ぶかという比較の視点で整理します。

どんな場面で介護医療院が候補になる?

「日常的な医学管理が必要」「在宅復帰は難しい」「長期的に医療と介護の両方が欠かせない」という3つの条件が重なる場面で、介護医療院が候補になります。

具体的には、次のような状況です。

  • 病院からの退院にあたり、医師から「今後も継続的な医学管理が必要」と説明されたが、自宅での介護体制を整えるのが難しい
  • 老健でリハビリを続けてきたが、在宅復帰のめどが立たず、医療的な管理も必要な状態が続いている
  • 特養を検討しているが、喀痰吸引や経管栄養など、施設によって対応が分かれる医療的ケアが日常的に必要
  • 看取りまで見据えて、医療体制の整った場所で過ごしたいと考えている

リハビリによる在宅復帰が主な目的なら老健、医学的な管理よりも生活支援が中心なら特養が、制度の設計に合っています。医療的ケアの必要度が高い場合の施設選び全般については、医療対応が必要な人の老人ホーム選びや医療依存度が高い場合の入居条件で整理しています。

要介護度が同じでも、施設選びが分かれるのはなぜ?

要介護度は「どれくらい介護の手間がかかるか」を示す指標で、「どれくらいの医学的管理が必要か」を直接示すものではないからです。家族が混同しやすいのがこの点です。

たとえば要介護3の方が2人いて、一方は身体機能の低下が中心で医療処置はほとんど必要なく、もう一方は経管栄養や喀痰吸引が毎日必要だとします。前者は特養が候補になり、後者は介護医療院や、医療対応に力を入れている有料老人ホームが候補になります。

この判断を家族だけで行うのは難しいため、かかりつけ医やケアマネジャーに、本人に今後も必要になる医学的な管理の内容(点滴・処置の頻度・経管栄養の有無など)を書き出してもらうところから施設探しを始めます。その内容をもとに、候補となる施設の種類を一緒に絞り込みます。

老健から特養や介護医療院へ移ることはできる?

移ることはできます。ただし自動的に移れる仕組みはなく、移り先の施設ごとに申し込みと受け入れの判断があります。

老健に入所している間も、特養への入所申し込みはできます。特養の入所は申込順ではなく、要介護度や家族の状況などから必要性の高い人を優先する仕組みのため、老健にいることだけで順番が早まるわけではありません。判定の仕組みは特養の入所判定はどう決まる?で解説しています。

リハビリを続けても在宅復帰が難しく、医療的な管理も続く場合は、介護医療院が移り先の候補になります。この場合も「老健にいたから優先的に移れる」という制度上の順番はありません。今の施設の支援相談員やケアマネジャーを通じて候補施設に相談し、受け入れの可否を確認します。「今の施設で続けられないこと」と「次の施設に必要な機能」を書き出しておくと、移り先の施設への説明がしやすくなります。

介護医療院のI型・II型は何が違う?

I型は重い身体疾患のある人や身体合併症のある認知症高齢者など、より手厚い医療を必要とする人を想定した区分で、II型はそれ以外の、容体が比較的安定した人を想定した区分です。

介護医療院の運営基準(介護医療院の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準 第3条・第4条)では、I型療養床を「主として長期にわたり療養が必要である者であって、重篤な身体疾患を有する者、身体合併症を有する認知症高齢者等」のための療養床と定めています。医師の数は、常勤換算でI型の入所者48人に1人、II型の入所者100人に1人を基準に計算するため、I型のほうが手厚くなります。

この区分は、「うちの状況ならI型・II型のどちらが対象になりそうか」を見学前におおまかにつかむ材料になります。ただし、実際に受け入れられるかは、本人の病状と必要な処置の内容をもとにした施設側の判断です。同じ介護医療院でも受け入れられる医療的ケアの範囲は施設ごとに違うため、必要な処置を具体的に伝えて確認します。

特養・老健・介護医療院の役割の違いと、本人の状態に応じてどの施設が候補になりやすいかを整理した図

施設を比較するとき、家族は何を確認すればいい?

「本人にどの程度の医学的管理が必要か」「その管理が今後も長く続く見込みか」の2点を軸に、見学時に施設ごとに具体的に質問します。

確認したいこと特養で聞くこと老健で聞くこと介護医療院で聞くこと
医療的ケアへの対応必要な処置に対応できるか、看護職員の配置は在宅復帰までのリハビリ計画と医療体制I型・II型のどちらか、必要な処置に対応できるか
滞在の見通し長期利用を前提とした入所後の生活想定される在宅復帰までの期間長期療養・看取りまでの対応方針
費用の内訳介護費+居住費+食費+その他の内訳同左(施設類型により差がある)同左(I型・II型で異なる場合がある)

3施設とも、費用は「介護サービス費用の自己負担(1〜3割)」+「居住費・食費・日常生活費」という基本構造は同じです。所得や資産が一定以下の場合は、居住費・食費の負担を軽くする補足給付(負担限度額認定)を使える場合があり、市区町村の窓口やケアマネジャーに相談できます。

確定申告の医療費控除では、扱いが分かれます。国税庁の説明では、介護費・食費・居住費の自己負担額のうち、特養は2分の1、老健と介護医療院は全額が医療費控除の対象です。誰の申告で使えるかや領収書の見方は老人ホームの費用は医療費控除の対象になるかで整理しています。

見学・相談で家族がつまずきやすいのはどこ?

施設の名前だけで役割を判断してしまうことです。次の3つは、事前に知っておくと避けられます。

「医療院という名前だから、どの医療的ケアにも対応できるはず」と考える 介護医療院でも、I型・II型や施設ごとの体制によって、対応できる処置の範囲は違います。本人に必要な処置(喀痰吸引・経管栄養・看取り対応など)を書き出し、そのリストを複数の施設に見せて確認します。

老健を「長期の住まい」として探す 老健は在宅復帰を目指す中間施設なので、長く暮らす場所を探している場合は、施設側の想定と滞在期間がずれることがあります。老健を検討するときは、退所後に自宅へ戻るのか、他の施設に移るのかも並行して考えておきます。

要介護度だけで候補を絞る 要介護度は介護の手間の目安で、医学的な管理の必要度とは別の指標です。日常的に必要な医療処置をかかりつけ医やケアマネジャーに整理してもらい、その内容を軸に候補を絞ります。

相談から施設決定までは、どんな順番で進める?

医学的管理の内容を整理する→施設の種類を相談する→問い合わせ・見学→申し込み、の順で進めます。退院の日が決まっている場合は、1番目に早めに取りかかると、比較に使える時間が残ります。

  1. 医学的管理の内容を整理する:主治医に、退院後も必要な処置(点滴・喀痰吸引・経管栄養・褥瘡処置など)とその頻度を書面またはメモでまとめてもらう
  2. ケアマネジャー・病院の医療相談員に施設の種類を相談する:整理した内容をもとに、特養・老健・介護医療院のどれを軸に探すかを決め、複数の施設を並行して検討する
  3. 候補施設への問い合わせ・見学予約:介護医療院ならI型・II型の別、必要な処置への対応可否を施設ごとに確認する
  4. 見学・重要事項説明書の確認:居室・医療体制・費用の内訳を実際に見て比べる
  5. 申し込み・入所判定・契約:特養は優先順位による判定があるため、申し込みから入所まで時間がかかることがある。老健・介護医療院は空床の状況によって入所までの期間が変わる

1番目の整理があいまいなまま見学を始めると、施設ごとに同じ説明を繰り返すことになり、比べるための質問に時間を使えません。最初に一度、書面にまとめておきます。

施設を移るとき、これまでの情報は引き継がれる?

治療経過やケアの内容は、診療情報提供書(紹介状)や看護サマリーで新しい施設に引き継がれます。ただし、本人の性格や好みは書類に残りにくい部分です。

日々の関わり方や意思疎通の積み重ねは、記録だけでは伝わりきりません。施設を移る前に、家族が本人の性格・好み・不安に感じやすいことを新しい施設の相談員に直接伝えておくと、書類で足りない部分を補えます。

新しい環境に慣れられるかという本人の不安には、契約前の体験入所や短期入所(ショートステイ)で、実際に過ごしてみてから決める進め方もあります。

特養の待機期間中に、介護医療院や老健を検討してもいい?

制度上の問題はありません。特養の順番を待つ間、在宅での介護が難しければ、老健や介護医療院を「つなぎ先」にする進め方があります。

ただし老健は在宅復帰を目指す施設なので、特養の順番待ちだけを目的にした入所は、施設側と認識をすり合わせる必要があります。ケアマネジャーに特養の入所を待っていることを伝えたうえで、どちらが本人の状態に合うかを相談します。ショートステイを含めたつなぎ先の比べ方は特養の順番待ちの間、どこで過ごす?で整理しています。

3施設の違いを一言でまとめると

  • 特養は生活の場、老健は在宅復帰を目指す中間施設、介護医療院は医療も必要な長期療養の場
  • 選ぶ軸は要介護度ではなく、日常的に必要な医学的管理の内容と、それがどのくらい続くか
  • 介護医療院のI型・II型は医療の手厚さの違いで、受け入れの可否は施設ごとに確認する

最初にすることは、かかりつけ医やケアマネジャーに、本人に今後も必要になりそうな医学的管理の内容を書き出してもらうことです。その内容が分かれば、特養・老健・介護医療院のどれを優先して見学するかが決まります。

老人ホーム全体の種類から整理したい場合は老人ホームの種類と選び方、候補探しは介護しせつさーちの検索で都道府県・施設種別・医療対応の条件から絞り込めます。


参考にした一次情報(2026年10月2日確認)