老人ホームに入居していても、65歳以上の方のインフルエンザと新型コロナの予防接種は、住民票のある市区町村の定期接種として受けられます。施設によっては配置医師などが施設内で接種します。ただし、住民票が別の市区町村にある場合や本人の意思を確かめにくい場合は、手続きと費用が変わります。

10月に入ると、施設から「今年の予防接種の希望をうかがいます」という書類が届くことがあります。自宅で暮らしていたころは本人がかかりつけ医で受けていた接種も、入居後は施設での段取りになり、家族が同意書や予診票の記入を頼まれる場面も出てきます。ここでは、施設に入っている親の予防接種について、誰が実施するのか、費用はどう決まるのか、家族が何を確認すればよいのかを、制度と自治体の案内に沿って整理します。

この記事の答えを先にまとめると、次のとおりです。

  • 高齢者のインフルエンザと新型コロナの定期接種は、住民票のある市区町村が実施します。期間・自己負担額・使える医療機関は市区町村ごとに決まっていて、施設の所在地では決まりません
  • 住民票が施設と別の市区町村にある場合、住民票のある自治体で事前の依頼書の申請などが必要になることがあります
  • 高齢者の定期接種は、本人が希望する場合に限って行われます。本人の意思が確認できないまま家族や施設の希望だけで受けると、定期接種ではなく任意接種となり、自治体によっては費用が全額自己負担になります

施設に入っていても定期接種の対象になる?

対象になります。65歳以上の方は、施設に入居していても、住民票のある市区町村の定期接種としてインフルエンザと新型コロナの予防接種を受けられます。

予防接種法第5条は、市町村長が「当該市町村の区域内に居住する者」に対して定期の予防接種を行うと定めています。高齢者のインフルエンザは、65歳以上の方と、60〜64歳で心臓・腎臓・呼吸器の機能やHIVによる免疫の機能に一定の障害がある方が対象で、毎年度1回受けられます。新型コロナも同じ範囲の方を対象に、2026年(令和8年)10月から自治体による定期接種が行われています。

いずれも厚生労働省の説明では「原則有料」で、自己負担額は市区町村が公費でどこまで負担するかによって変わります。施設に入っているかどうかで対象から外れることはありません。

肺炎球菌ワクチンも高齢者の定期接種ですが、こちらは毎年ではなく、65歳の方などが対象の1回限りの接種です。2026年4月から、定期接種で使うワクチンが23価(PPSV23)から20価の結合型ワクチン(PCV20)に変わっています。RSウイルスワクチンは、定期接種の対象が妊婦(妊娠28〜36週)で、高齢者が受ける場合は任意接種になります。

施設での接種は誰がどこで行う?

施設の配置医師(嘱託医)や協力医療機関の医師が施設内で接種する場合と、かかりつけ医に出向いて受ける場合があり、施設ごとに異なります。

自治体の案内にも、高齢者施設で配置医師などが接種する場合の手続きが用意されています。たとえばさいたま市は、高齢者施設向けに予診票の送付を依頼する手続きを設けていて、接種する医師が市内の実施医療機関に当たる場合の扱いを案内しています。

施設内で接種する場合、家族は当日に付き添うのではなく、施設から届く希望の確認書や予診票の記入・返送で関わる形になることがあります。入居前に受診していたかかりつけ医で受けたい場合は、外出の付き添いを誰がするかも含めて施設と相談します。配置医師と協力医療機関の役割の違いは協力医療機関を見るときのポイントで整理しています。

費用はいくら?施設の所在地で決まる?

自己負担額は、住民票のある市区町村の定期接種の金額で決まります。同じ施設に住む入居者どうしでも、住民票の場所が違えば金額が変わることがあります。

2026年度の高齢者インフルエンザの定期接種について、自治体の案内を見ると、期間と金額は次のように分かれています。

自治体接種期間自己負担額
横浜市2026年9月下旬〜12月31日2,300円
川崎市2026年9月24日〜2027年1月31日2,300円
目黒区2026年10月1日〜2027年1月31日69歳以下は2,500円、70歳以上は無料

いずれの自治体も、生活保護を受けている方などは自己負担が免除されます。横浜市と川崎市では、世帯全員が市民税非課税の場合も、所定の書類を出すと無料で接種できます。表は各自治体の2026年度の案内を2026年10月6日に確認したもので、ほかの市区町村や新型コロナの金額はそれぞれの案内で確かめてください。

自己負担分を施設の利用料と一緒に請求されるのか、接種した医療機関へ直接支払うのかは、施設の事務担当に確認します。

住民票が施設と別の市区町村にある場合は?

住民票のある市区町村の定期接種を、ほかの市区町村の施設や医療機関で受けることになるため、事前の手続きが必要になる場合があります。

住民票を元の住所に残したまま入居している場合、接種を受ける場所は施設のある市区町村でも、定期接種を実施するのは住民票のある市区町村です。たとえば目黒区は、施設入所などの理由で東京23区の契約医療機関以外で接種し、費用の助成を受けたい場合に、「定期予防接種依頼書」の事前申請が必要だと案内しています。

手続きの名前や流れは自治体ごとに違います。施設から接種の案内が届いたら、住民票のある市区町村の予防接種担当に「施設入所中で、ほかの市区町村の施設で接種したい」と伝えて、必要な書類を確認します。施設の担当者には、住民票がどこにあるかを先に伝えておくと話が早く進みます。

介護保険には、施設に住所を移しても元の市区町村が保険者のままになる「住所地特例」がありますが、これは介護保険の制度で、予防接種には関係しません。予防接種はあくまで住民票の場所で決まります。住民票を移すかどうかの判断材料は住民票・住所変更は必要かと入居後の住所変更の手続きにまとめています。

施設入居中の親の予防接種で、定期接種として受けられるかを確かめる流れの図。住民票が施設と同じ市区町村なら、その自治体の期間と予診票で施設の配置医師やかかりつけ医が接種する。別の市区町村なら、住民票のある自治体に依頼書などの手続きを確認する。どちらの場合も本人の接種の意思を確かめ、確認できれば定期接種、確認できなければ任意接種となり費用が全額自己負担になる自治体がある

本人が意思を伝えにくいときはどうする?

家族やかかりつけ医が、本人の意思をとくに慎重に確かめます。確認できないまま家族や施設の希望だけで受けると、定期接種の扱いにならない自治体があります。

予防接種法では、子どもの定期接種などと違い、高齢者のインフルエンザなどの定期接種には受ける努力義務がありません。目黒区は「接種を受ける法律上の義務はありません。本人が希望する場合に限り接種を行います」と案内しています。

認知症などで意思を確かめにくい場合について、さいたま市と川崎市は、家族やかかりつけ医によって慎重に本人の意思を確認するよう求めています。さいたま市の案内では、本人の接種希望の意思が確認できない方への接種は予防接種法に基づかない任意接種となり、費用は全額自己負担と明記されています。

家族ができることは、次のようなものです。

  • 以前の接種歴を伝える:毎年インフルエンザの予防接種を受けていたか、本人がどう話していたかを施設と配置医師に伝える
  • 面会のときに本人に尋ねる:言葉で答えにくくても、説明を聞いたときの様子を職員と一緒に見る
  • 迷ったら配置医師に相談する:持病や体調を踏まえて受けるかどうかは、本人と医師が判断することです。家族の判断だけで決めない

家族が施設に確認しておきたいことは?

接種の方法・費用の請求方法・体調が悪い日の扱い・住民票の場所の4点を、案内が届いた段階で確認しておきます。

施設から案内が届いたら、次の点を施設の担当者に確認します。

  1. どこで誰が接種するか:施設内で配置医師などが接種するのか、かかりつけ医へ出向くのか
  2. 費用の支払い方法:自己負担分を施設の利用料と一緒に払うのか、医療機関へ直接払うのか。免除の対象になる場合、どの書類をいつまでに出すか
  3. 当日に体調が悪い場合:予診で接種を見送ったとき、期間内に別の日で受け直せるか
  4. 住民票の場所の共有:施設と別の市区町村に住民票がある場合、依頼書などの手続きを家族と施設のどちらが進めるか

冬場は、インフルエンザなどの流行で面会のルールが変わる施設もあります。入居後のケアプランの見直しや、施設に何をどの順番で相談するかは施設入居後に家族が確認したいことで、感染症がある場合の受け入れの考え方は感染症がある場合の受け入れ確認で整理しています。

これから施設を選ぶ段階なら、見学のときに「予防接種は施設内で受けられますか」「住民票が別の市区町村でも手続きを手伝ってもらえますか」と聞いておくと、入居後の段取りが見えます。候補の施設は介護しせつさーちの検索で、都道府県と施設の種類から探せます。接種期間・金額・必要な書類は、住民票のある市区町村の最新の案内で確認してください。


参考にした一次情報(2026年10月6日確認)