老人ホームに入っても、歯医者にかかることはできます。通院が難しくなった方には、歯科医師が施設を訪れて診療する「歯科訪問診療」があり、特養・老健・介護付き有料老人ホーム・グループホームなどの運営基準は、施設に協力歯科医療機関を定めておくよう努めることを求めています。ただし、日々の口腔ケアを施設がどこまで行う決まりになっているかは、施設の種類で違います。

親の入居を考え始めたとき、「入れ歯の調子が悪くなったら誰に診てもらうのか」「歯みがきは施設でしてもらえるのか」は、見学の場で聞きそびれやすい点です。ここでは、施設の種類ごとの決まりと、入居前に施設へ確認しておきたいことを、運営基準と厚生労働省の指針をもとに整理します。

この記事の答えを先にまとめると、次のとおりです。

  • 歯の治療(入れ歯の作製や調整を含む)は医療保険の歯科診療。施設に入っていても受けられ、通院が難しければ歯科医師が施設に来る形になる
  • 日々の口腔ケアは、特養・老健・介護医療院では計画的に行うことが義務。介護付き有料老人ホームは2027年3月末までは努力義務で、4月から義務になる。グループホームの運営基準には同じ条文がない
  • 入居前には、協力歯科医療機関の名称と協力の中身、訪問歯科の頼み方、毎日の歯みがきと入れ歯の手入れを誰が行うかの3点を確認する

老人ホームに入っても、歯医者にかかれる?

かかれます。施設の協力歯科医療機関や、本人が通っていた歯科医院の歯科医師が施設を訪れて診療する形が一般的です。費用は医療保険の自己負担になります。

入れ歯の作製や調整、むし歯や歯ぐきの治療は、施設の種類にかかわらず医療保険で受ける歯科診療です。歩いて通える方は家族の付き添いで歯科医院に通うこともありますが、車いすや寝たきりで通院が難しい方は、歯科医師が施設の居室に来て診る「歯科訪問診療」を受けることになります。

施設の側にも決まりがあります。特養、老健、介護医療院、介護付き有料老人ホーム(特定施設)、グループホームの運営基準には、いずれも「あらかじめ、協力歯科医療機関を定めておくよう努めなければならない」という条文があります。努力義務なので、定めていない施設がまったくないとは言えません。どこの歯科医院と協力しているかは、施設ごとに確認が必要です。

有料老人ホームについては、厚生労働省の「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」が、歯科医療機関と協力する旨と協力の内容をあらかじめ取り決めておくよう努めること、協力歯科医療機関の診療科目や協力内容を入居者に知らせておくことを求めています。同じ指針は、入居者が医療機関を自由に選ぶことを妨げてはならず、協力歯科医療機関は選択肢の一つとして示すものだとも定めています。長く通っている歯科医院がある場合は、その医院が施設まで訪問してくれるかを、医院と施設の両方に聞いておきます。

毎日の歯みがきや入れ歯の手入れは、施設がしてくれる?

特養・老健・介護医療院では、施設が口腔衛生の管理体制を整え、一人ひとりの状態に合わせて計画的に行うことが義務です。介護付き有料老人ホームは2027年4月から同じ扱いになり、それまでは努力義務です。

特養の運営基準(指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準 第17条の3)は、施設が「口腔衛生の管理体制を整備し、各入所者の状態に応じた口腔衛生の管理を計画的に行わなければならない」と定めています。老健(第17条の3)と介護医療院(第20条の3)にも同じ条文があります。この規定は2021年度の基準改正で加わり、2024年3月末までの経過措置を経て、現在は義務になっています。

介護付き有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護)にも、同じ内容の条文(指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準 第185条の2)があります。ただし附則の経過措置により、2027年3月31日までは「行うよう努めなければならない」という努力義務の扱いです。今この時期に入居先を探しているなら、施設がどこまで準備を進めているかを聞いておくと、入居後の口腔ケアの見通しが立ちます。

グループホーム(認知症対応型共同生活介護)の運営基準には、2025年4月1日施行の版で確認した範囲で、口腔衛生の管理についての同じ条文はありません。協力歯科医療機関を定めるよう努める規定はあるので、口腔ケアの取り組みは事業所ごとに確認します。

住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅では、介護は入居者が外部の訪問介護事業所などと契約して受けるのが基本です。歯みがきの介助を誰が行うかは、ケアプランに入れるかどうかで変わるので、入居前にケアマネジャーと施設の両方に確認します。

施設の種類ごとに、日々の口腔ケアの決まり、協力歯科医療機関、歯科医師・歯科衛生士による管理指導を介護保険で使えるかを比べた表。特養・老健・介護医療院は口腔衛生の管理が義務で管理指導は使えない。介護付き有料老人ホームは2027年3月末まで努力義務で4月から義務、管理指導は使える。グループホームは運営基準に同じ条文がなく、管理指導は使える。住宅型有料老人ホームとサ高住は介護を外部と契約し、管理指導は使える

歯科の費用は、どの保険で払う?

歯の治療は医療保険、歯科医師や歯科衛生士による口の管理と指導は、施設の種類によって介護保険の「居宅療養管理指導」で受けられる場合があります。

費用の出どころは、次の3つに分かれます。

内容使う保険対象になる人
むし歯・歯周病の治療、入れ歯の作製や調整医療保険(歯科診療)施設の種類にかかわらず受けられる
歯科医師・歯科衛生士が訪問して行う口の管理と指導(居宅療養管理指導)介護保険有料老人ホーム、サ高住、グループホームなどに住む要介護・要支援の人
施設が日々行う口腔ケア施設の介護サービスに含まれる特養・老健・介護医療院・介護付き有料老人ホームの入居者

居宅療養管理指導は、介護保険法第8条第6項で、医師、歯科医師、薬剤師などが「居宅要介護者」に行う療養上の管理と指導と定められています。同じ法律は、有料老人ホームや軽費老人ホームの居室も「居宅」に含めています。一方、特養・老健・介護医療院に入所している方は施設サービスを受けているので、この居宅療養管理指導の対象になりません。口の管理は、施設の介護サービスの中で行われます。

歯ブラシやコップ、入れ歯の洗浄剤などの日用品を施設が用意するのか、家族が持ち込むのか、実費で請求されるのかは、施設ごとに違います。月額費用の内訳を見るときに、口腔ケアの用品がどこに入っているかも確かめてください。費用の内訳の見方は月額費用に含まれるもので整理しています。

施設に入っている方の歯科の治療費は、ほかの医療費と同じく医療費控除の対象になり得ます。施設の費用そのものが控除の対象になるかは施設の種類で分かれるので、老人ホームの費用は医療費控除の対象?もあわせて確認してください。

入居前に、施設へ何を確認すればいい?

協力歯科医療機関の名称と協力の中身、訪問歯科の頼み方、毎日の口腔ケアを誰がどこまで行うかの3点を、重要事項説明書と見学で確認します。

有料老人ホームの重要事項説明書の様式には、協力医療機関とは別に、協力歯科医療機関の名称や協力内容を書く欄があります。特養や老健は、運営基準で協力医療機関などの重要事項を施設内に掲示することになっています。書類と見学で、次の順に確認すると聞き漏れが少なくなります。

  1. 協力歯科医療機関の名称と協力の中身:定期的に訪問があるのか、依頼があったときに来てもらうのか。歯科健診の機会があるか
  2. 訪問歯科の頼み方:入れ歯が合わない、痛がっているといったときに、誰に伝えればよいか。家族の同意や立ち会いが必要か
  3. かかりつけの歯科医院を続けられるか:今通っている医院が施設まで訪問できるか。協力歯科医療機関以外にかかる場合の手続き
  4. 毎日の口腔ケアの担い手:食後の歯みがきの介助、入れ歯の洗浄と夜間の保管を、職員がどこまで行うか。口腔ケアの計画があるか
  5. 用品と費用の扱い:歯ブラシや洗浄剤を誰が用意するか、歯科の治療費や居宅療養管理指導の費用がどのように請求されるか

食事の形が刻み食やとろみ食になっている方は、口の状態が食事にも関わります。食事の対応を確認するときは食事制限に対応できる老人ホームの探し方もあわせて読むと、見学で聞く項目をまとめやすくなります。協力医療機関(医科)の見方は配置医師(嘱託医)と協力医療機関の違いで解説しています。

入居したあと、家族は何を見ておけばいい?

面会のときに、入れ歯の合い具合と食事の様子を見ておき、気になる変化があれば施設の担当者に伝えます。

入れ歯は、体重の変化や歯ぐきのやせで合わなくなることがあります。食事の量が減った、食べるのに時間がかかるようになった、入れ歯を外したがるといった変化は、面会に行く家族が気づきやすい点です。気づいたことは、施設の看護職員や生活相談員に伝え、訪問歯科の依頼が必要かを相談します。

ケアプランの見直しの場は、口腔ケアの内容を確認する機会にもなります。見直しの時期と相談の順番は施設入居後に家族が確認したいことにまとめています。

この記事で持ち帰れること

  • 歯の治療は施設に入っても医療保険で受けられ、通院が難しければ歯科医師が施設に来る形になると分かった
  • 日々の口腔ケアの決まりは、特養・老健・介護医療院は義務、介護付き有料老人ホームは2027年4月から義務、グループホームは運営基準に同じ条文がない、と施設の種類で違うと分かった
  • 入居前に、協力歯科医療機関の名称と協力の中身、訪問歯科の頼み方、毎日の口腔ケアの担い手を確認すればよいと分かった

見学の予定があるなら、重要事項説明書の協力歯科医療機関の欄を先に読み、上の5項目を質問のメモにしておくと話が早く進みます。候補の施設は介護しせつさーちの検索で地域と施設の種類から絞り込めます。


参考にした一次情報(2026年11月8日確認)

運営基準は改正されることがあります。入居を検討している施設の口腔ケアの体制と協力歯科医療機関は、重要事項説明書と施設への問い合わせで確認してください。