老人ホームの費用が医療費控除の対象になるかは、施設の種類で決まります。特養は介護費・食費・居住費の自己負担の2分の1、老健と介護医療院は全額が対象です。介護付き有料老人ホームやグループホームの介護サービス費、有料老人ホームやサ高住の家賃・食費は対象になりません。

親の施設費用を毎月支払っていると、年末が近づくころに「この費用は確定申告で何か使えないのか」と気になる方は多いと思います。国税庁の説明では、介護保険施設の費用のうち「看護や医学的管理の下での療養上の世話」に当たる部分が医療費控除の対象とされていて、その範囲が施設の種類で分かれています。ここでは、どの施設のどの費用が対象になるか、誰の申告で使えるか、領収書のどこを見ればよいかを順に整理します。

この記事の答えを先にまとめると、次のとおりです。

  • 特別養護老人ホーム(特養)は、介護費・食費・居住費の自己負担額の2分の1が医療費控除の対象。介護老人保健施設(老健)と介護医療院は、同じ3つの自己負担額の全額が対象
  • 介護付き有料老人ホームとグループホームの介護サービス費は対象外。有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の家賃・管理費・食費も対象外。ただし外部の訪問看護などを使っていれば、そのサービスごとに判定する
  • 医療費控除は、親の費用を生計を一にする子が支払っていれば、子の確定申告で使える。親の年金口座から支払っている場合は、親自身の申告の対象になる

医療費控除の対象になる施設はどこ?

対象になるのは、介護保険施設の施設サービスの費用です。特養は自己負担額の2分の1、老健と介護医療院は全額が対象になります。

国税庁のタックスアンサー(No.1125)は、介護保険施設のサービスには日常生活上の世話のほかに看護や医学的管理の下での療養上の世話が含まれていることから、その部分に当たる自己負担額を医療費控除の対象としています。施設ごとの範囲は次のとおりです。

施設の種類医療費控除の対象対象外
特別養護老人ホーム(特養)・地域密着型特養介護費・食費・居住費の自己負担額の2分の1日常生活費、特別なサービス費用
介護老人保健施設(老健)介護費・食費・居住費の自己負担額の全額日常生活費、特別なサービス費用
介護医療院介護費・食費・居住費の自己負担額の全額日常生活費、特別なサービス費用
介護付き有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護)なし介護サービス費・家賃・管理費・食費
グループホーム(認知症対応型共同生活介護)なし介護サービス費・家賃・管理費・食費

特養が2分の1になっているのは、特養の施設サービスのうち療養上の世話に相当する部分を、厚生労働省の通知などで自己負担額の2分の1とする扱いになっているためです。老健と介護医療院は、医療法以外の規定では原則として病院・診療所に含まれる施設であることから、全額が対象とされています。

介護付き有料老人ホームとグループホームの介護サービス費は、国税庁のタックスアンサー(No.1127)で医療費控除の対象外となるサービスとして挙げられています。同じ「老人ホーム」でも、介護保険施設かどうかで扱いがはっきり分かれます。施設の種類ごとの違いそのものは介護医療院・老健・特養の違いで整理しています。

施設の種類ごとに医療費控除の対象範囲を比べた図。特養は介護費・食費・居住費の自己負担額の2分の1、老健と介護医療院は全額が対象。介護付き有料老人ホームとグループホームの介護サービス費、有料老人ホームとサ高住の家賃・管理費・食費は対象外。住宅型有料老人ホームやサ高住で外部の訪問看護などを使った場合はサービスごとに判定し、医師の診療費や薬代は施設の種類にかかわらず医療費になる

特養・老健・介護医療院で対象外になる費用は?

日常生活費と特別なサービス費用は、どの介護保険施設でも対象外です。

国税庁の説明では、日常生活費は理美容代など、施設のサービスで提供される便宜のうち日常生活でも通常必要となる費用で、入所者に負担させることが適当と認められるものを指します。月々の請求書に「日常生活費」「教養娯楽費」「理美容代」として載っている費目は、控除の計算から外します。月額費用以外にかかるお金の種類は老人ホームの追加費用にまとめています。

老健と介護医療院の個室など特別室の使用料は、診療や治療を受けるためにやむを得ず支払うものに限って対象になります。本人や家族の希望で個室を選んだ場合の差額は、この条件に当たりません。

有料老人ホームやサ高住の費用は対象外?

家賃・管理費・食費は対象外です。外部の訪問看護などを別契約で使っている場合は、そのサービスごとに判定します。

住宅型有料老人ホームやサ高住では、住まいの費用とは別に、外部の事業所と契約して訪問介護や訪問看護を使うことがあります。この外部サービスは「居宅サービス」として扱われ、国税庁のタックスアンサー(No.1127)で次のように分かれます。

  • 対象になる:訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導(医師などによる管理・指導)、通所リハビリテーションなどの医療系サービス
  • 医療系サービスと同じ月に使った場合だけ対象になる:訪問介護(生活援助中心型を除く)、通所介護(デイサービス)など。同じ月のケアプランに医療系サービスが入っているかどうかは、ケアマネジャーから交付される「サービス利用票」で判断する
  • 対象にならない:生活援助中心型の訪問介護、福祉用具貸与など

居宅サービスの領収証には、基本的に医療費控除の対象となる金額が記載されることになっています。住宅型有料老人ホームやサ高住に住んでいる場合は、施設の請求書とは別に、外部の事業所から届く領収証を保管しておきます。

施設の種類にかかわらず、医師の訪問診療や外来の診療費、処方された薬の代金は、通常の医療費として控除の対象になります(国税庁 No.1122)。介護付き有料老人ホームやグループホームに住んでいても、協力医療機関の訪問診療の費用や薬局の領収書は集めておきます。

おむつ代は医療費控除に入れられる?

おおむね6か月以上寝たきりで医師の治療を受けている人のおむつ代は、医師が発行する「おむつ使用証明書」があれば対象になります。

国税庁の質疑応答事例では、傷病によりおおむね6か月以上寝たきりで、医師の治療を受けている人のおむつ代は、治療を受けるために直接必要な費用として医療費控除の対象になるとされています。申告には「おむつ使用証明書」が必要です。介護保険の要介護認定を受けている一定の人は、市町村長などが交付するおむつ使用の確認書などを証明書の代わりにできます(国税庁 No.1122)。

特養・老健・介護医療院では、おむつ代は介護保険の施設サービス費に含まれていて別に請求されないのが一般的です。有料老人ホームなどで、おむつ代を実費として別に支払っている場合に確認したい項目です。

誰の確定申告で使える?親の費用を子が払っている場合は?

親と生計を一にする子が、親の施設費用を実際に支払っていれば、子の確定申告で医療費控除を使えます。

医療費控除は、納税者が自分または自分と生計を一にする配偶者その他の親族のために、その年の1月1日から12月31日までに支払った医療費が対象です(国税庁 No.1120)。ポイントは「誰のための費用か」ではなく「誰が支払ったか」です。

施設に入っている親と子が別々に暮らしていても、「生計を一にする」に当たる場合があります。所得税基本通達2-47は、生計を一にするとは必ずしも同じ家に住んでいることをいうものではないとし、親族の間で常に生活費や療養費などの送金が行われている場合は生計を一にするものとしています。住民票の世帯とは別の考え方なので、施設入居前の世帯分離で世帯を分けていても、それだけで判断が決まるわけではありません。

家族の支払い方によって、使える人が変わります。

支払い方医療費控除を使える人
親の年金口座から施設に引き落とし親本人
子の口座から施設に振り込み、子が親に生活費や療養費を送金している子(生計を一にする場合)
きょうだいで分担して支払っている実際に支払ったそれぞれが、自分の支払った分について検討する

所得税を納めていない人は、控除を受けても戻る所得税はありません。親が年金収入だけで所得税がかかっていない場合、親の申告では医療費控除の効果が出にくいため、誰が支払うかを家族で決める段階で一度確認しておきます。きょうだいでの費用の分け方は兄弟姉妹で介護費用を分担するときの考え方で整理しています。生計を一にするかどうかの判断に迷う場合は、所轄の税務署に相談すると、具体的な事情に即して確認できます。

控除額はどう計算する?

1年間に支払った医療費の合計から、保険などで補てんされた額と10万円を差し引いた額が控除額です。上限は200万円です。

国税庁 No.1120 の計算式は次のとおりです。

(実際に支払った医療費の合計額 − 保険金などで補てんされる金額)− 10万円

総所得金額等が200万円未満の人は、10万円の代わりに総所得金額等の5パーセントの金額を差し引きます。施設の費用で注意したいのは、高額介護サービス費の払い戻しです。払い戻しを受けた場合は、その金額を医療費から差し引きます。特養の施設サービス費だけに対する払い戻しの場合は、その2分の1を差し引きます(国税庁 No.1125)。

計算例:特養の費用を子が支払っている場合

以下は、仕組みを確かめるための計算例です。特定の施設の料金や相場を示すものではありません。ご家族の領収書の金額に置き換えて計算してください。

  • 特養の介護費・食費・居住費の自己負担額:1年間で120万円
  • 医療費控除の対象になる金額:120万円 × 2分の1 = 60万円
  • 親の通院の診療費と薬代:1年間で5万円
  • 医療費の合計:65万円(保険などの補てんはなし)
  • 医療費控除の額:65万円 − 10万円 = 55万円

控除額がそのまま戻るわけではありません。所得控除なので、控除額に、申告する人の所得税の税率をかけた額が所得税の負担の軽くなる目安です。実際の金額は、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」に金額を入力すると計算されます。

負担限度額認定(補足給付)で食費・居住費が軽減されている場合は、軽減後に実際に支払った額で計算します。軽減の仕組みは負担限度額認定とはで解説しています。

領収書のどこを見ればいい?

特養・老健・介護医療院の領収証には、医療費控除の対象となる金額が記載されることになっています。まずその欄を探します。

国税庁 No.1125 によると、特養が発行する領収証には医療費控除の対象となる金額が記載されることになっています。老健については、2018年(平成30年)9月28日付の厚生労働省の通知で、介護費・食費・居住費の自己負担額を区分ごとに記載し、できるだけ医療費控除の合計対象額も記載するよう求めていることが紹介されています。

年が明けてから慌てないように、次の順で準備しておきます。

  1. 施設の種類を確かめる:契約書や重要事項説明書で、特養・老健・介護医療院のどれか、それ以外の有料老人ホームやサ高住かを確認する
  2. 1月から12月の領収書を1年分そろえる:控除はその年に実際に支払った額が対象なので、12月分を翌年1月に支払った場合は翌年分に入る
  3. 領収証の「医療費控除対象額」の欄を確認する:記載がない、または区分が分からない場合は、施設の事務担当に年間の対象額を書面で出してもらえるか尋ねる
  4. 誰の口座から支払ったかを確認する:申告する人と実際に支払った人が一致しているかを見る
  5. 高額介護サービス費の払い戻し通知を手元に置く:差し引く金額の根拠になる

確定申告では、領収書をもとに「医療費控除の明細書」を作って申告書に添付します。領収書そのものは提出しませんが、税務署から求められた場合に備えて、申告期限から5年間は保管します(国税庁 No.1120)。

前の年の分を申告し忘れていたら?

還付申告は、その年の翌年1月1日から5年間できます。過去の施設費用も、領収書が残っていれば申告を検討できます。

国税庁のタックスアンサー(No.2030)では、確定申告の義務がない人が納め過ぎの税金の還付を受ける申告は、確定申告期間とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間提出できるとされています。会社員の子が年末調整だけで済ませていて、親の施設費用を控除に入れていなかった場合は、さかのぼって確認できます。

施設費用の負担そのものを軽くする方法は、医療費控除のほかに負担限度額認定や社会福祉法人の軽減制度もあります。これらを横断的に比べたいときは老人ホーム費用を抑える方法を参照してください。

これから施設を選ぶ家族が確認しておくこと

医療費控除の扱いは施設の種類で決まるため、月々の費用が同じくらいでも、特養・老健・介護医療院と有料老人ホームとでは、年間の税負担まで含めると差が出ることがあります。見学や契約前の説明の場では、次の2点を聞いておくと、入居後の書類の準備がしやすくなります。

  • 毎月の領収証に、医療費控除の対象となる金額は記載されますか
  • 年間の対象額をまとめた書類は、依頼すれば出してもらえますか

特養を候補に入れて探す場合は、介護しせつさーちの検索で都道府県と施設の種類から絞り込めます。税額の計算や個別の事情の判断は、国税庁の確定申告書等作成コーナーや所轄の税務署で確認してください。


参考にした一次情報(2026年10月2日確認)

税制の取り扱いは改正されることがあります。申告する年分の取り扱いは、国税庁の最新の案内で確認してください。